蔵人日記
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非蔵人日記抄

第二回『似て非なるもの』

10月某日1号タンクの上槽を迎えた。今期最初のお酒が出来た。

中身は弊社で最も人気のある「吟醸しぼりたて生原酒」通称“アルミ缶”になる酒だ。今や海外10か国以上に輸出しており、国内販売も毎年増え続けている弊社の顔というべき酒である。

その話はまた次回以降に譲り今回はタンクの中で盛んに発酵中の純米大吟醸の仕込みの際に思ったことを書いてみたい。

大吟醸クラスは「吟醸蔵」という場所で仕込むのだが、仕込み場所だけでなく、仕込み過程の全てが違うということを今回知った。

大吟醸の名称が使える定義は国税庁のHPから引用すると「精米歩合50%以下」「吟醸造り、固有の香味、色沢が特に良好」。“吟醸造り”の解説もあるのだが「吟醸造りとは吟味して醸造すること」と精米歩合以外は解ったような解らないようような曖昧なことしか書いていない。

一般的に大吟、純米大吟といえば精米歩合が高くで香りがよく飲み易いが値段が高いというのがイメージであろう。

私自身もそうであった。日本酒が好きな人でも精米歩合を大吟醸の基準と考えている人も多いのではないか。だから売る側も「磨き三割九分」等々、表ラベルに高い精米歩合を書いていると、それだけで上等そうに見えて高く売れるという戦略もありなわけである。

ただ今回初めて造りに関わって思うのは「吟味して醸造すること」の部分が意味するところの大事さというか、その大変な労苦を身に染みて味わって、「大吟醸」の酒を精米歩合だけをクローズアップして語られるとちょっと泣けてくるというか、本音を吐くと怒りの感情さえ芽生えてくる。

造りのシークレットな部分もあろうかと思うので数値的な部分は精米歩合以外は詳細は省くが、(因みに弊社の純米大吟醸は山田錦の精米歩合40%)最初は洗米だがこれは酒母米、麹米、掛米とも洗米機は使用せず全て手洗いである。手洗いといっても、ご家庭でお米を砥ぐように何度も水を入れ替えながらゆっくり砥ぐのではなくストップウォッチで計測しながら、ある一定に秒数で片手をファンの様にかき回して一気に砥ぐ。酒母、麹米だけなら量はさほどではないが、大吟醸クラスは掛米の方も手洗いするので、今回なら総米600kg程度を全部手洗いするのは結構な労力を要する(冬場の水の冷たさを今は想像もしたくない)

手洗いする理由を杜氏に聞くと米を均一に砥ぐには手洗いの方が機械洗米より圧倒的に優れているそうだ。

洗米後、翌朝蒸すのだが酒母米、麹米は何れの酒でも甑で蒸すが大吟醸クラスは掛米も甑で蒸す(後述)。その後の製麹作業の大変さは大袈裟だが筆舌に尽くしがたい、私自身は最初の種麹を撒く部分しか担わないが、杜氏はその後30分毎麹室に入り製麹作業を繰り返し、麹米が次の段階になるまで今回は約12時間ぶっ続けで深夜まで作業したと後で聞いた。

通常の仕込みでは掛米を蒸し米機で蒸し、つづけて冷却機械装置で冷やしそのままエアーシューターで仕込みタンクまで送り込むが、大吟醸では前述のとおり甑で蒸した熱々の米を笊に取って(大体15~17㎏ごと)、サラシ台に運び、台の上で広げこれを低温になるまで手作業で広げる→まとめる→広げる作業を繰り返す(甑で蒸された米は取り出したすぐは50度前後なので作業しているうちに手のひらが真っ赤になってくる。

通常の麹米等でもする作業だが麹室に引き込む際の目標数値はその時々の気温、用途によって異なるが大体30数度~40度という数値なので2~3回行えば大体下がるが、掛米は更に低温にするので外気温がまだまだ高い今の時期、中々温度が下がらないから、その作業を余計に行わなければならない。

中腰で行う作業は通常時でもキツイのに更に腰に負担がくるその冷えた掛米を吟醸蔵に移し更に冷却し、タンク投入前にはこんな冷や飯出されたら食えたもんじゃないなというぐらいカチコチになったのをサラシ台の上で手作業でお米一粒一粒バラバラになるようほぐしてから投入して漸く仕込みが終了(投入作業、これも手渡しリレー方式)

大雑把に述べればこんな感じであるが仕込みを終えて気付いたことは仕込みの過程で機械に頼る要素が余りないということである。(使っている機械的なものといえば甑のボイラーぐらい?あとは吟醸蔵内の空調?)

よその会社は別にして、弊社に限っていえば、これだけ手間掛けたお酒が3千円ちょっとである。ノーマルな純米酒の約3倍の価格帯だが、掛けてる手間は3倍じゃとてもきかない。

私の感想としては「その吟味して醸造すること」の“こと”の部分は5倍以上である。
(私の拙い筆力ではそのニュアンスが上手くお伝え出来ないのがもどかしいが)

勿論、世の中にはもっとリーズナブルな「大吟醸酒」も存在する。コンビニにいけば1000円以下の大吟醸酒が最近はどこでも普通に売っている。
大手メーカーなら機械を使用し効率よく大量に作ることによって原価を抑えることもできるのであろう。

どちらが良いとか優れているとか製品の是非ではなく、現実として弊社規模の蔵ではコンビニ用の大吟醸は絶対に造れないということである。
ただ醸造酒のような嗜好の要素が強い世界で、その事は必ずしも卑下することばかりでは無いと思いたい。

弊社の大吟醸、純米大吟醸を買っていただいたり、居酒屋で飲む機会があればこの駄文をちょっと思い出して一献傾けて貰い「似て非なるもの」この表題に込めた私の意図を汲み取って頂ければ幸いです。

第二回おわり

【筆者ご紹介】
本家松浦酒造 新人蔵人 竹内浩二
『鳴門鯛』と同じ村生まれ、初めて飲んだ日本酒は勿論 本家松浦酒造場謹醸 なるとたい『金松』。時期は秘密。次に飲んだのはそれから三十数年後 松浦酒造に面接に行く前の夜に吟醸『飛切』。
10代の後半からずーっと県外に在住だったので松浦酒造の存在そのものを忘れていた。世代的にはいわゆるバブル世代だが 生きてきた実感としてはバブル後始末世代ではなかろうか 若い頃の会社の上司はやれゴルフだ、やれ銀座だと交際費青天井で『♫サラリーマンとは気楽な稼業ときたもんだ♫』を地で行ってたが、そういう美味しい事がこちらまで降りてくる前に時代は回っていた。気がつけば周りの仕事先関係はアウトレイジな人やその共生者ばっかりの時期もあったような..,そんなこんなで数年前より郷里に帰り、今までの罪多き人生を反省しお天道様の下、少しでも世間様に何か良きものをお届けしたいと思い現在に至る。