2022年は徳島の「すだち」の収穫量が減ってしまい、
加工用のすだち果汁が足りないという話が新聞に掲載されるほどでした。


今、「すだち」栽培の現場はどうなっているのか?



―――「すだち酒」製造になくてはならないパートナー、西地食品有限会社の社長 吉永真由美さんにお話をうかがいました。

2022年は不作だった徳島の「すだち」

素子

今日はありがとうございます。

去年は「すだち果汁」が足りなくて、当蔵では「すだちサワーの素」および「にごりすだち酒」の販売を一時休止しました。

西地さんも大変だったと思いますが、どうでしたか?

去年は裏年で、「すだち」の収穫量が少なくなるだろうという話は事前に聞いていました。

それで農家さんの収穫の手伝いに行ったりして、応援はしていたのですが、結局、収穫量が伸びなくて。

私たちは自社農園を運営しているのですが、ここのすだちはちゃんと収穫できたんですよ。

ずっと手入れをしているのがよかったんですね。だから私たちも「すだち酒」用に約束していた量は確保できるなって思ってたんです。
でも、全体的な量がやっぱり確保できなくて。

素子

西地さんの農園はちゃんと手入れをしていたから、裏年とはいえ例年並みくらいは採れたということなんですね。

そうですね、だいたい例年並みの収穫はありました。

ひとつの畑はちょっと少なかったんですが、全体的には、普通の裏年くらいの量は採れました。

素子

では、手入れが行き届かない畑は、収穫量が減ったということですか?

どう考えるかは難しいのですが、去年はすだちに限らず、ゆずも、ゆこうも、だいだいも、全部収穫量が少なかったんです。

でも、今年は5月にそこらへんが真っ白になるくらい、たくさん花が付いて、すごくいい香りでした。

だいたいGW前くらいから咲き始めて、5月終わりくらいに咲き終わって実を付けていくんですね。

今年はたくさん実を付けてくれるんじゃないかと期待しています。

素子

そうですか!今年は豊作が期待できそうですね!

後は、無事に台風を乗り越えてくれたら、たくさん採れるんじゃないかと思います。

お花が咲いた後は、台風が第二の関門なので。

でもね、考えてみたら、これから収穫量は減る傾向にあると思いますね。

だって、農家さんがもう歳いってるし、毎年すだちを持ってきてくれるメンバー見ていたら、「来年は来てくれるかなぁ」と思うような、杖をつきながらのおじいちゃんとかいらっしゃるんです。

すだち農家の現実とこれから

素子

すだち農家さんは、高齢化しているのですね?

そうなんですよ。すだち農家を辞める人と、すだちのできる量を考えたら、絶対的に足りんようになるんは間違いないです。

だから、私たちもすだちの農園を増やしていってるんですよ。そうしないと、需要に間に合わなくなってきています。

ただ、自社農園を増やすということはね、別の問題があってね。

収穫時期の一ヶ月、人手が足りんのんちゃうかなぁってちょっと心配してるんです。

素子

収穫時期はお盆の頃ですか?

すだちの収穫は、だいたい9月から10月の中旬くらいなんです。
その間、収穫と搾りの作業が重なるので、社員みんなで畑に行って収穫するんです。

収穫したら搾らなあかんし、たいへんです。

素子

ぜひ!収穫のお手伝いをさせてください。最初、使い物になるかどうか分かりませんけど・・・。

ただ、9月末から我々も酒造りが始まっちゃいます。

ほうやね!9月の始めだけでも助かるかも!ここ何年かはまだすだちの樹が小さいので手伝ってもらいやすいと思います。

それまではね、柚子やゆこうを植えてたんですが、すだちもヤバいって思い始めて、10年ほど前からすだちを植え始めました。植えてから5年くらいで収穫できるようになるんですよ。

すだちの収穫、割と楽しいんですよ、収穫はね!ちょっとピクニック気分で!

素子

1本何時間くらいで収穫できますか?



いやいや1本に何時間もかけよったら商売にならん!(笑)

うちの農園は割と樹を低く育てて、採りやすいようにしてるんですよ。冬場に剪定を入れて、実を採りやすいように育ててます。

素子

剪定も素人がやったら実がならないって聞いたことがあります!

そうそう。剪定は、よく知った社員さんが専門でやってくれてます。

お手伝いはね、怪我が心配。収穫してるときに、気をつけててもトゲで怪我するんよね。斜面やから滑るしね。


素子

今まですだちを作っていた農家さんの畑はなくなっていくってことですか?

なんかね、枯れていってますね、樹が・・・。

(一同びっくり)

去年、近くの農家さんの畑を見にいったんですけど、樹がね、もうほとんど枯れとるなぁって。樹が弱ってるんですよ。

手入れも行き届いてないしね、もう畑に入るんは無理やなぁっていう状態。

素子

やっぱり世話をしてくれる農家さんがいてこその「すだち」の樹なんですね。

そうなんですよ。

素子

手入れというのは、下草を刈ったりとか肥料をやったりとかするんですか?

もちろんそういうこともやります。

あとね、害虫駆除が大事なんですよね。害虫が樹に入ったら、幹の中を食べるんですよ。そしたら枯れちゃう。

他の農家さんの収穫に手伝いには行けても、手入れまではなかなか行けんからねぇ。


海外で需要が増える「すだち」

素子

海外で柑橘類の需要が増えてるのですか?

そうなんですよ、増えています。「すだち」も海外の人が狙っていますよ。(笑)

今までフランスなんかでは「柚子」が人気だったんですけど、「すだち」も欲しがってきていますね。

2年前は「すだち果汁」を3トンくらい海外へ輸出しました。

去年は足りないから1トンにしてもらったんですけど、今年は7トンくらい輸出したいと思っています。


素子

「すだち」とか「柚子」を海外へ輸出するんですね?

そうです。ヨーロッパは果実の栽培方法に決まり事がいろいろありますから、それに則って栽培しています。

「すだち」これから来るんちゃうかなぁ。


素子

和食にすだちは欠かせませんもんね!

そうやね。楽しみなんですけど、量がね、間に合わないなじゃないかなぁって結構切実な問題です。

結局のところ、自社農園を増やしていくしかないなぁって思ってます。

「すだち」不作の原因は?

素子

ところで「すだち」の不作は気温上昇も関係してるんですか?

そうかもしれません。夏だけじゃなくて、その気温が1年間樹に影響を与えてますからね。

でも、今年はたくさん花が咲いたから、本当に不作の原因が分からないんですよね。

実はね、すだちが売れなかった時代があって、

自社農園も採っても売れないから実を採らずに成りっぱなしにしておいた年があったんですよ。

そしたらね、次の年は本当に実が全然ならなくて。

だからね、実が付いたら落としてやらないと、樹が傷むんですね。

樹は最後の最後まで実に栄養を注ぎ込むから、自分の体が弱っちゃう。実はさっさと採ってやらないといけないんです。

すだちは青いうちに採っちゃうから、柚子やゆこうに比べて樹が弱らなかったんでしょうね。

素子

やっぱり手入れって大事なんですね。

そうやね、柑橘類を市場に供給していくというのは一番の使命ですが、

江戸時代から続くこの土地を守っていきたいと思っていますし、雇用も守っていくことも大事だと思っています。

1年を通して働いてもらえるように、柑橘類だけでなくて、生姜やウリや米やタケノコも作ってるんです。

来年はね、レモンも植えてみようと考えているんですよ。

みなさんが働きやすいように、家のことを優先してもらいながら、働きやすく続けてもらえたらなって思ってます。

ただ、暑いときは大変な仕事やなぁと思います。

私ね、大人になるまで醸造酢って知らなかったんですよ。

お寿司や酢の物もぜんぶ柑橘酢が当たり前だったので。

素子

贅沢ですね(笑)

「すだち」にとって、大切なのは、毎年しっかり手入れをしながら、ちゃんと収穫をすることが大切なんですね。

私たちは、すだち農家さんが今後も安心して運営を続けられるように、適正な価格ですだち果汁を買わせていただいて「すだち酒」を作っていきたいと思います。

全国の、世界の皆さんに「すだち酒」をおいしく飲んでいただけるよう、頑張ります。これからもどうぞよろしくお願いします。

西地食品とは


西地食品有限会社
https://nishiji-foods.com/index.html

徳島を代表する農産物のすだち・ゆず・ゆこう・だいだいなどの香酸柑橘の生産・加工を行っている。
無添加にこだわり「安心・安全」な生産を守り続けており、自社農園「西地ファーム」での農産物の生産にも取り組んでいる。
松浦酒造にとって、すだち果汁を供給していただく大切なパートナーとして15年以上前からのお付き合いです。