非蔵人日記抄
第三回『似て非なるもの その2』
11月11・12日の2日間、毎年恒例の蔵開きが開催された。
少し天候に不安があったが今年も多くの方が来場され、盛況に終えることが出来た。
阿波踊りやミニコンサートの定番行事に加え、新たなイベントの餅投げも好評だった。
蔵に従事する我々も早朝からの留仕込みを終えた後、10時からのオープンとともに参加した。私は今年は利き酒イベントを担当した。利き酒は5種類の日本酒を2本ずつ用意し、ブラインドテイストして、同じ酒を当てて貰うというゲームだが、これが中々難しい。
沢山の方にチャレンジして貰ったが正答率は平均2~3問で全問正解者は1日で7~8名程度だった。毎年のことながら男性より女性の方が成績が良い傾向がある。男性陣はテイスティングより飲む方に集中してしまうのかもしれない。
今回の出品酒で一番人気は、最近搾ったばかりの「水ト米原酒」だった。純米酒規格だが、吟醸酒のようにフルーティな香りで、原酒ながらアルコール度数も低く抑え、大変飲み易く仕上げてあり、ブラインドなので先入観無く味わったお客様からも「このお酒買いたい」というお声を多く頂いた。2番人気は「飛切」という銘柄の吟醸酒で、これも最近出来たお酒でどちらも自分が少しは関わっているので嬉しい結果だった。
週明けの月曜日、今回の蔵開きについて反省会を行い、担当別ごとに報告をおこない、来年に向けての課題等を話し合った。それらを踏まえ、来年も来て頂いたお客様に喜んで頂けるように全社一丸となって取り組みたい。
***「閑話休題」***
最近のNEWSでジョージア(旧グルジア)で世界最古のワイン醸造に痕跡が発見されたというのがあった。約8000年前に遺跡でそれまで知られていたのより更に1000年遡るという、その記事のなかで、世界最古の醸造酒は9000年前に米を原料にした中国の酒ということも記載してあった。
葡萄の果皮に野生酵母が付着しているので極端に言えば収穫した葡萄をつぶして容器に入れとけば、勝手に発酵するワインと違い お米はそのままでは酒にならないのでどういう醸造方法だったのかと少し検索してみたら、お米以外に蜂蜜やフルーツの痕跡が見つかっており、それらに含まれている天然酵母の力で醸造したといわれているそうである。では現代の日本酒に通じる麹菌を使用した酒の起源はいつからかというと奈良朝以前はどうも良くわからないというのが実情のようである。
ちなみにジョージアで発見されたワインの製法は「Kvevri」と言い現代もそのまま受け継がれており無形文化遺産にも登録されているそうだ。最近日本でもジョージアワインが沢山輸入されるようになって、輸入業者が「世界最古のワイン」「クレオパトラやスターリン、チャーチルの愛したワイン」等の宣伝コピーや「酸化防止剤が含まれていない」(ホントかな???)との謳いで売られていて、私も陶器ボトル入りを飲んだことがある。
ワインにおける酸化防止剤問題と日本酒におけるアルコール添加問題は、その目的と効果は全く別物でも、世間一般に少し誤って受け止められ多くの消費者が誤解している点では似ているところがある。近年日本酒に再び注目が集まり、全体としての消費量の減少傾向は止まっていないが、特定名称酒は横ばい、もしくは若干上向きにあり特に純米酒が好まれる傾向にあることは販売に携わっていて実感してるが、同時にいわゆる「アル添」酒に対する根強い抵抗感を展示会や試飲販売で直接お客様から受けることが頻繁にある。嗜好品なので御自身の好みや体質に合うお酒を選んでもらえばそれで良いのだが、どうもあきらかにジャーナリズムの誤情報等に強く影響を受けてるようなお話を聞かされると相手の言葉を否定はしないが心の中で「何だかなぁ」という気持ちになることは正直ある。
しかし近年、日本酒のイベントが増え、全国各地の様々なタイプの日本酒が身近に味わえるようになってきて、必ずしもアル添云々に拘らないお客様(その多くは女性)も増えてきたようにも思える。
造る側の立場となった私からすれば、あまりスペックに拘らず自由に気ままにその時々のシチュエーションや食事と一緒に日本酒を楽しんでいただければ、より一層魅力的な日本酒の世界が広がっていくのではないか思う。
第三回 終わり